【レギ主】想定外

※主人公名:レイ
※主人公が性別女になってますのでご注意



黒い髪を蒼色の布でまとめ上げ、動きやすい格好をした少し小柄な少年…それがギジェリガーからの報告にあった情報だったのではなかったか。レギウスは優秀な弟子がある一点を見落として報告していたことに気付き、ため息をついた。
(…少年ではなかった)
一応、ギジェリガーにはテルベの里の出身であることからその母親の経歴までしっかり調べさせたつもりだったのだが、どうやらあの里全体が共犯となって”彼女”の性別を偽装していたようだ。
まだうら若いゆえ、少年のような恰好をして男のような立ち振る舞いをしていれば早々気付かれることは無いのだろう。しかし、地蟲という情報組織に所属していた忍者のレギウスから見れば一目瞭然であった。なぜテルベの里は彼女の性別自体を隠していたのか。仲間もそうだ。デューカスやボールドンの様子を見るに、男達は彼女のことを完全に男だと思い込んでいる。おそらくルルサとミュラとジーノ…そして知っているとしてもイリアまでだろう。レギウスは好奇心をそそられた。なぜ隠しているのか。

無事に団体名と砦名を決め、旗揚げが決まった後、「団長に聞きたいことがあります」と言って誰も居ない(もしくは居てもジーノ)砦の北西端に彼女を呼び出した。こちらが何を聞くとはまったく疑っていないのだろう、純粋な明るい声が自分の名を呼ぶのが聞こえた。
「お待ちしていました」
「レギウス?どうしたんだ、こんな場所に呼んだりして」
「あなたに聞きたいことがあったのです」
なんだろう、と彼女は首を傾げている。レギウスは小声で彼の振りをした彼女に耳打ちする。
「なぜ男の振りをしているのですか?」
はっと息を飲んだ音が耳に入った。彼女は同じく小声で低く抑えめに問い返す。
「…なんでわかった?」
「私は忍者ですから。男剣士の立ち振る舞いをしていても、わかるものはわかります」
「そうか…レギウスには敵わないな」
敵わないなと言ったが、その表情は悔しそうでも辛そうでもなくどこか嬉しげだったのでレギウスは驚いてしまった。7割方、聞かれたくないという意味の嫌そうな顔をすると思っていたので、尋ねたレギウスの方が面喰ってしまったのである。面喰っただけではない、彼女とすれば大した意味はないのだろうが、「レギウスには敵わないな」と言って微笑んだ顔に思わず年甲斐もなくドキリとしてしまったのだった。

「…敵わないと思わされたのはこちらの方です。触れられたくない事ではないかと思っていたのですが、違ったのですね」
「ああ、まあ…剣士として生きていくなら男の方がやりやすいし、って言うくらいのことだよ」
「そうですか」
「でも最近ちょっとミュラが過保護なんだ」
彼女は口をとがらせる。
「いくら薬使いが居るとは言ってもお前は本当は女の子なんだからそうやって何も考えずに突っ込んでいって怪我するなとか言うようになってさ」
「ミュラといえば」
レギウスはミュラが居間で呟いていた言葉を思い返す。
「先程ミュラが『どうしてこう男ばかり増えるんだ』と不満を述べていましたが」
「それなんだけど…なんかミュラは僕のことを変に心配してるみたいなんだ。デューカスが加わった時が一番酷かったかな。『あんな奴、私が居る限りお前の側に寄せつけないからな!』なんて言って。でもデューカスはアイオニア兵だけど僕たちの仲間じゃないか?何を心配してそんなこと言うのかなって。まだアイオニアのこと疑っているんだろうか」
彼女にはミュラがなぜそのような言い方をするのかがわからないらしい。少し考えればわかることだろうに、他人には時折鋭いことを言う割に自分に向けられる好意には気付かないようだ。
「ふむ…なるほど、ミュラの行動理念が良くわかりました」
十中八九、ミュラはレイのお目付け役を自負しているのだ。このお人好しで悪い男に騙されかねない純粋な少女の心を守るために。
「え、わかったのか?!どういうことなんだ?」
「教えて欲しいですか?」
「ああ。是非知りたい」
真剣な眼差しでこちらを見上げてくる様子は、日頃の凛とした佇まいと全く変わらない。レギウスは思わず口角を釣り上げた。この凛とした少年めいた振る舞いを、自分の前でだけ可憐な少女に変えることが出来たりはしないか―――

「本当に?」
「本当に。って…レギウスなんでそんなに楽しそうなんだ。そんなに楽しい事ならすぐ教えてくれてもいいじゃないか」

この何も気付いていない純粋な少女にどう教えようか…レギウスは少し屈んで彼女の耳元で囁いた。

「私のような男にあなたを口説き落されないようにするためですよ」
「―――ッ?!!」

がばっと彼女は身を引いた。

「そ、それはどういう…」
暗くてはっきりとは見えないが、おそらく相当焦っている。くすりと笑ってレギウスは問いに答える。
「言葉通り、そのままですよ」
「んな…っ」
薄暗い中、顔が赤く染まるのが見えて、レギウスは満足げに微笑んだ。

「大丈夫です、レイ。この事は誰にも言いませんから。むしろ私もミュラと共同戦線を張らせてもらいましょう」
「は…?」
「いえ、なに。独り言ですよ」

そう言ってあえて彼女に背を向け、数歩歩く。

「辛い事があったら相談して下さい。あなたの頼みとあらばどんなことでも解決してみせましょう。私を頼って下さい」
「え、あ…ああ…ありがとう…」

振り向けば、月光に照らされた彼女が見える。頬を両手で押さえて立っている。そよ風になびく後れ毛が妙に可愛らしく感じてしまう。

(そう、頼って下さって結構です、ではなくて、頼って下さいなのです。これはあなたへの許可ではなくて、私の個人的な望みなのですよ、レイ)

まだ固まったままの彼女を見て満足げに微笑み、レギウスは砦の中央部へと戻って行った。