りゅーらさんからもらったお題で書くSS 紡時レギ主「汗」

湖しか見たことの無かった自分にとっては、川ですら新鮮であったのに、今や海を目の前にしている。ブーツを脱いで砂浜に足を乗せると、熱された砂の余りの熱さに驚いて飛び跳ねた。
「あっつ…!」
思わず足の裏を見る。火傷でもしてしまったのではないかと心配したが、思ったより足の裏の皮膚は頑丈で何も変わった様子は無かった。
「海に入るつもりですか?」
上から降ってくる声がレギウスの物だとわかっていたので、首を反らして桟橋の上の黒い影を見上げた。
「うん。せっかくだし」
「今日は熱いですね。少し我慢して走り抜ければ海はすぐですよ」
「…レギウスは?」
「はい?」
「ここまで来て、僕を見に来ただけ?」
「はい。あなたが外へ行くのを見つけたので」
「そうか…」
別に彼は共に海に入りに来たわけではないのだ。後を追ってきたのだから幼馴染たちのように共に楽しんでくれるのだとばかり思ってしまっていた。残念だが、彼は大人だし、追いかけてきてくれただけでも喜ぶべきだろう。
「レギウスが見てるうちに海に挑戦してみるよ」
残念そうな表情を見せないようにわざと明るく言って、灼熱の砂浜の上へと駆け出した。熱せられるトウモロコシになった気分とはこういうものを言うのだろうか、足を乗せてはすぐに上げる、を繰り返して飛び跳ねながら押したり引いたりを繰り返す青色の液体へと近づく。ばしゃり、足を海に突っ込むと思ったよりも温かった。
「どうですか?」
両足を海に浸していると、背中に彼の声が投げかけられる。振り返って、
「なんだか温いね」
と返せば、彼はいつもの仏頂面を少し崩して苦笑のような笑みを見せた。
「砂浜から熱が伝わって温められているのかもしれませんね」
濡れた足でぺたぺたと砂浜の上を歩いて彼の真下に戻ると、桟橋の端に立った彼は屈んでこちらを見下ろしてくる。汗で頬に張り付いた長い黒髪が、黒い服の隙間から見える男らしい首に流れる一筋の汗が、いつもは感じさせない大人の男らしさを際立たせている。
「どうしました?」
「あ、ううん、レギウスって大人だなと思って――」
そう言うと彼は何だか微妙な表情をした。少し考えた後、彼はひょいと桟橋から砂浜に飛び降りてきた。
「夜なら海の水も冷たいと思います。また来てはどうですか。…私も一緒に入りますから」
「え?」
どうやら、大人だなという表現が誤解を招いたらしい。いや、嬉しい誤解なのではあるが。
「いいのかい?」
「ええ。夜ならば誰も見てないでしょう」
「?」
「さあ、ここにいては干上がってしまいます。戻りましょう」
彼の汗ばんだ手が、布を巻いていない腕に触れる。
(ああ、レギウスもこの暑さじゃ熱いんだなあ…平気そうな顔してるけど)
男らしい骨ばった手はしっとりと湿っていて、新鮮な気分を味わってしまった。
(雪山でも、砂漠でも大丈夫そうな顔してたけど、レギウスも人間だもんね)
なんだか楽しそうですね、彼はそう問いかけてきた。
「まあね」
夜の海に入る約束のことだけだと思われてるだろうけどそれだけじゃない、珍しいレギウスが見られたから…なんて、口には出せなかった。
「ありがとう、レギウス」
礼を言われても彼はなんのことだかわからないだろう。
「はい?」
ほら、目を丸くしている。
しかし、ふっと優しい笑みを浮かべて「ありがとうございます」と言われるとは思いもしなくて、礼を言い合っただけなのに妙に恥ずかしくなってしまった。 (終)

【レギ主】想定外

※主人公名:レイ
※主人公が性別女になってますのでご注意



黒い髪を蒼色の布でまとめ上げ、動きやすい格好をした少し小柄な少年…それがギジェリガーからの報告にあった情報だったのではなかったか。レギウスは優秀な弟子がある一点を見落として報告していたことに気付き、ため息をついた。
(…少年ではなかった)
一応、ギジェリガーにはテルベの里の出身であることからその母親の経歴までしっかり調べさせたつもりだったのだが、どうやらあの里全体が共犯となって”彼女”の性別を偽装していたようだ。
まだうら若いゆえ、少年のような恰好をして男のような立ち振る舞いをしていれば早々気付かれることは無いのだろう。しかし、地蟲という情報組織に所属していた忍者のレギウスから見れば一目瞭然であった。なぜテルベの里は彼女の性別自体を隠していたのか。仲間もそうだ。デューカスやボールドンの様子を見るに、男達は彼女のことを完全に男だと思い込んでいる。おそらくルルサとミュラとジーノ…そして知っているとしてもイリアまでだろう。レギウスは好奇心をそそられた。なぜ隠しているのか。

無事に団体名と砦名を決め、旗揚げが決まった後、「団長に聞きたいことがあります」と言って誰も居ない(もしくは居てもジーノ)砦の北西端に彼女を呼び出した。こちらが何を聞くとはまったく疑っていないのだろう、純粋な明るい声が自分の名を呼ぶのが聞こえた。
「お待ちしていました」
「レギウス?どうしたんだ、こんな場所に呼んだりして」
「あなたに聞きたいことがあったのです」
なんだろう、と彼女は首を傾げている。レギウスは小声で彼の振りをした彼女に耳打ちする。
「なぜ男の振りをしているのですか?」
はっと息を飲んだ音が耳に入った。彼女は同じく小声で低く抑えめに問い返す。
「…なんでわかった?」
「私は忍者ですから。男剣士の立ち振る舞いをしていても、わかるものはわかります」
「そうか…レギウスには敵わないな」
敵わないなと言ったが、その表情は悔しそうでも辛そうでもなくどこか嬉しげだったのでレギウスは驚いてしまった。7割方、聞かれたくないという意味の嫌そうな顔をすると思っていたので、尋ねたレギウスの方が面喰ってしまったのである。面喰っただけではない、彼女とすれば大した意味はないのだろうが、「レギウスには敵わないな」と言って微笑んだ顔に思わず年甲斐もなくドキリとしてしまったのだった。

「…敵わないと思わされたのはこちらの方です。触れられたくない事ではないかと思っていたのですが、違ったのですね」
「ああ、まあ…剣士として生きていくなら男の方がやりやすいし、って言うくらいのことだよ」
「そうですか」
「でも最近ちょっとミュラが過保護なんだ」
彼女は口をとがらせる。
「いくら薬使いが居るとは言ってもお前は本当は女の子なんだからそうやって何も考えずに突っ込んでいって怪我するなとか言うようになってさ」
「ミュラといえば」
レギウスはミュラが居間で呟いていた言葉を思い返す。
「先程ミュラが『どうしてこう男ばかり増えるんだ』と不満を述べていましたが」
「それなんだけど…なんかミュラは僕のことを変に心配してるみたいなんだ。デューカスが加わった時が一番酷かったかな。『あんな奴、私が居る限りお前の側に寄せつけないからな!』なんて言って。でもデューカスはアイオニア兵だけど僕たちの仲間じゃないか?何を心配してそんなこと言うのかなって。まだアイオニアのこと疑っているんだろうか」
彼女にはミュラがなぜそのような言い方をするのかがわからないらしい。少し考えればわかることだろうに、他人には時折鋭いことを言う割に自分に向けられる好意には気付かないようだ。
「ふむ…なるほど、ミュラの行動理念が良くわかりました」
十中八九、ミュラはレイのお目付け役を自負しているのだ。このお人好しで悪い男に騙されかねない純粋な少女の心を守るために。
「え、わかったのか?!どういうことなんだ?」
「教えて欲しいですか?」
「ああ。是非知りたい」
真剣な眼差しでこちらを見上げてくる様子は、日頃の凛とした佇まいと全く変わらない。レギウスは思わず口角を釣り上げた。この凛とした少年めいた振る舞いを、自分の前でだけ可憐な少女に変えることが出来たりはしないか―――

「本当に?」
「本当に。って…レギウスなんでそんなに楽しそうなんだ。そんなに楽しい事ならすぐ教えてくれてもいいじゃないか」

この何も気付いていない純粋な少女にどう教えようか…レギウスは少し屈んで彼女の耳元で囁いた。

「私のような男にあなたを口説き落されないようにするためですよ」
「―――ッ?!!」

がばっと彼女は身を引いた。

「そ、それはどういう…」
暗くてはっきりとは見えないが、おそらく相当焦っている。くすりと笑ってレギウスは問いに答える。
「言葉通り、そのままですよ」
「んな…っ」
薄暗い中、顔が赤く染まるのが見えて、レギウスは満足げに微笑んだ。

「大丈夫です、レイ。この事は誰にも言いませんから。むしろ私もミュラと共同戦線を張らせてもらいましょう」
「は…?」
「いえ、なに。独り言ですよ」

そう言ってあえて彼女に背を向け、数歩歩く。

「辛い事があったら相談して下さい。あなたの頼みとあらばどんなことでも解決してみせましょう。私を頼って下さい」
「え、あ…ああ…ありがとう…」

振り向けば、月光に照らされた彼女が見える。頬を両手で押さえて立っている。そよ風になびく後れ毛が妙に可愛らしく感じてしまう。

(そう、頼って下さって結構です、ではなくて、頼って下さいなのです。これはあなたへの許可ではなくて、私の個人的な望みなのですよ、レイ)

まだ固まったままの彼女を見て満足げに微笑み、レギウスは砦の中央部へと戻って行った。

納得いかないので妄想でED変えてみた

幻想水滸伝 紡がれし100年の時」のEDが納得いかないので妄想で補ってみた。

主人公名:レイ/団体名:トルラディア/砦名:ロルフェン砦

※クリア後のネタバレ&原作と違う展開ご注意。

イオニアによる結界が壊れた後、人々は広い世界へと踏み出して行った。色々と後片付けの残っていたトルラディアの主要面子は出発するのが遅くなっていたのであるが、季節が春になる頃出発することに決めた。
主要面子と言うのはトルラディアが旗揚げしたあたりから森羅宮に攻め込んだ際にまで基本的に最前線で戦ってきた面々のことだ。
つまり、団長であるレイ、軍師のレギウス、最初の構成員であるミュラ、保護者兼苦労人のモーディ、元朱キ斧のザヴィド…そして、レイ達が旅立つきっかけを作ったゼフォンの6人その他である。
しかし、最前線の6人のうちの半分は戦いの後に新しい世界へ行くという予定ではなかった。

例えばレギウスは…ヒオニ山やアイオニアに残っていた「禁書」こと魔術関連の書物はレギウスの指示の下、魔石職人であり魔術研究者のフォルネを中心として分析を進めることになった。
元々、レギウスはそちらに加わるためにこの箱庭世界に残る予定であったのだが、新しい世界に旅立つにあたってレイがレギウスに付いて来て欲しいと頼みこんだためこのような形になった。
ミュラが「昨日までアイオニアに留まるって言ってたのに。どうしたんだ?」と聞けば、レギウスは目を細めて、「レイのあのまっすぐな目で、『レギウスも一緒に来てくれないか。一緒に戦ったみんなで、一緒に外の世界に踏み出したいんだ。…勿論、僕のわがままなのは良く解ってるんだけど』なんて頼みこまれたら断れませんよ」と答えた。

別の者も同様だ。

まずザヴィドは、元々アイオニアへの復讐を動機に生きていたため、ある意味もはやこの世界に居場所を持たなかったが、
ミュラやルルサに「トルラディア以外で安心して飯が食える場所がお前にあるのか」と問い質されてハッキリ断れなかったところを、レイに「外の世界はもうアイオニアも朱の斧も関係ない所だと思うよ。気に食わなかったら帰ってもいいし…。だけど、一緒に見に行くくらいはしてみないか」などと上手くほだされて、結局レイ達に付いていくことになった。
不本意そうには見せていたが内心は安心していたに違いない。

モーディは元々レイ達とは別でホドス村の人々と向かう予定だった。
ただ、前述のレギウス・ザヴィドといった一匹狼の態度の変化に感化されたようで、「わしも付いていくことにした!森羅宮でも怪我ばかりしおった危なっかしい若いモンばっかりで誰が治療するんじゃ?手先が不器用でおっちょこちょいなイリア一人で手が足りるわけなかろ?わしが必要じゃろ?ん?」とかなんとか言い出した。
苦笑しつつレイがホドス村の人々のことを尋ねると、フェアピークかオロスク村の先遣隊に任せることにしたのだという。

ただ、ゼフォンだけは少々違う事情があった。

森羅宮に向かう前の晩、星空の下で時代樹を見上げていたゼフォンに声をかけたのはレイだった。ゼフォンは軽やかに振り返って尋ねた。
「ねえ、レイ。アイオニアを倒して結界を解いて外の世界に行けるなら何をしてみたい?」
レイは数秒、黙ってゼフォンの目を見つめ返した。
「そうだな、まず一緒に戦ってきたトルラディアのみんなで一緒に外の世界を見たいな」
ゼフォンはぷっと噴きだして笑い、「なにそれ全然夢がないじゃん」と貶した。
そのゼフォンの様子に、「いいや、これが僕が一番したいことなんだよ」とレイは笑って、
「なあ、ゼフォン。約束しないか。明日戦うみんなで…僕とゼフォンと、レギウスとミュラとザヴィドとモーディさん…誰も欠けずにみんなで新しい世界を見に行こう。前ゼフォンが見せてくれた、ワイバーンの巣の先にある結界の場所から」と、真剣な表情で言った。
勿論ゼフォンは苦笑して、「キミはそんなこと言うけど、何があるかわかったもんじゃないんだよ?」と流そうとするが、「ゼフォン、約束だよ」とレイも譲らない。
その頑固さに、わかったわかったとゼフォンは繰り返し口にしてレイを帰した。
「レネフェリアスを止めて僕は眠れると思ったんだけどな。レーテみたいに…。でも仕方がないか。レイは、トルワドやアストリッドにいちいち忠告しにいくようなお節介真面目君なんだしね。ふふ、まあ面白そうだし、行けるところまで行ってみようか」
ゼフォンの手の中の宝珠は月光を受けてきらりと輝いていた。

「みなさん準備はよろしいですか」
レギウスの落ち着き払った声が食堂に響く。返事をしたのはレイ、ミュラ、ザヴィド、モーディ、ゼフォン…そしてミュラの弟のジーノと、テルベの里馴染みのイリアだ。
「特に薬と呪石はいつ補充できるかわかりません。十分過ぎる備えをしてありますね?」
「レギウスに言われると、ちゃんと持ってきたのに再確認したくなっちゃうよね」と苦笑するのはゼフォンだ。
「私の石はジーノが管理しているから問題ない」と、ミュラ。
「大丈夫だ。姉貴とゼフォンが使いまくっても大丈夫なように沢山持ってきたし、材料も沢山持ってる」と自信満々に言うジーノ。
「薬ならニドさんが持ちきれない程くれましたから」とイリアが言えば、
「だからって持てない分をわしが持つことになるのはなぜなんじゃ!年寄りをこき使いおって」とモーディが文句を言う。
「念のために持ってはいるが、呪石を使う機会は前より減るはずだ。テラスファルマやアイオニア兵と戦うことは無いからな。その辺の猪に呪術を掛ける必要はない」と、ザヴィド。

「では、団長。出発の号令をお願いします」
「わかった。みんな、聞いてくれ」
レイは席を立って、全員の目を順番に見て行った。
「本当は、今日一緒に外の世界にいくはずじゃなかった人も居ると思う。だけど、一緒に行くと決めてくれた。ありがとう。僕は一人じゃアイオニアに立ち向かえなかったし、戦いが終わってもみんなが居なかったら何をすればいいのかわからなかったと思う。僕は、悪いけど、これから何をするのかなんて決めてない。だから、みんなと一緒に広い世界で見つけていきたいんだ。これから何をするのか、どんなことをしてみたいのか。一人じゃ見つけられなくてもみんなが居てくれれば、きっとみんなと何かを見つけていける気がするから」

ワイバーンの巣の坂道を駆けあがっていく姿が見える。
先頭を駆けていくのはジーノ、その後ろをミュラとイリア。若者三人に小言を言って速足で歩くのはモーディ。前の四人を見てクスクスと笑っているゼフォンと、そんなに走るとまた転ぶぞと呆れているのがザヴィド。
「こういう気楽な旅もいいですね。新しい世界を旅するのに忍者は廃業しましょうか」と珍しくレギウスが笑えば、
「そうだね。料理人とか…?」と、レイ。
「御冗談を。ロルフェン砦の食事に慣れた皆に私の稚拙な料理を食べさせるというのですか」
「あはは、冗談だよ。レギウスがエプロンつけて料理してる所なんて想像できないや」

新しい世界は広いだろう。
迷うことも、大きすぎて戸惑うこともあるに違いない。
けれども、彼らには共に新しい世界へ踏み出していく。

―――絆という、仲間という、かけがえのないものがある限り、存在する意味を見いだせる気がするから。

とらわれる

「弁慶さんがこの世界に残ってくれるなんて…夢みたい」
「僕こそ、夢の中に居るみたいです。君の側に居ることが出来て、しかも君に手を取ってもらえるなんて」
「べ、弁慶さんが手を握っていて下さいって言ったんですよっ」

望美は恥ずかしくなって顔を背けた。
弁慶は微笑んで穏やかに言葉を紡ぐ。

「将臣くんから、妹を嫁に出すような気分だと言われてしまいました」
「将臣くんったら…!」
「ふふ、でも事実ですよね」

立ち止まり、望美の頬に空いた手を添える。

「望美さん。君は、記憶を無くしながらも僕を選んでくれましたね。クリスマス、僕以外も君と過ごしたいと思っていたに違いないのに」
「私は弁慶さんと過ごせたらいいなって、思ってましたよ」
「嬉しいな。良ければあの時の話をもっと聞かせてほしいんですが…」
「あの時って、クリスマスイヴですか?」
「ええ」

将臣たちがゲームをしようと言い、片付けを嫌うヒノエ等が将臣と遊びだす頃、弁慶と望美は将臣とヒノエの尻拭いをするような立場で洗い物に徹していたのだった。
二人きりで洗い物をしていたら誰かが割り込んできそうなものであったが、思ったよりゲームや酒盛りに熱中していたらしい。
なにより、弁慶の周到な作戦があったとしてもヒノエが割り込むのが常であるのに、今回ヒノエは洗い物を嫌がった結果望美と過ごす機会を失ったのである。
ちなみに、元々望美の行動を邪魔するはずもないリズ達は、景時が買ってきたこの世界の酒を飲み比べしていた。

「弁慶さんと少しでも話せたらな〜って思って、皿洗いを手伝ったんです」
「僕の思い込みかもしれないと思う部分もありましたが、君がクリスマスプレゼントに何か欲しいかと聞いてくれたのが気になっていまして」
「で、でも私あの時はまさか弁慶さんと二人でクリスマスイヴを過ごせるなんて思わなくて。プレゼントしそびれちゃいました」
「僕にとっては、特別な時間を君と二人だけで過ごせたことが何よりのプレゼントでしたよ。今何かプレゼントが欲しいか聞かれたら、臆面なく、君と二人で過ごす時間が欲しいと言えますね」
「もう、弁慶さんったら…」
「僕にしては珍しいことなんですよ。一人の女性にこんなに執着するなんて。自分の命は惜しくないけれど、君のことは惜しいんです。君が許してくれたからには、僕はもう君を離しません。これからずっと」
「私もずっと弁慶さんの側に居ます。もし弁慶さんが京に帰りたくなったら、私も付いていきますから」
「何を言ってるんですか。僕は世界はどこでもいいんです。君が居れば。君が僕の全てなのだから。君が居なければ僕が生きる意味も場所もありません」

(こ、これって凄い告白だよね…!弁慶さんってば…)

「ふふ、僕がこんなに重たいことを言っても君は嫌だと言わないんですね」
「嬉しいんですよ。嫌なんて言うはずないじゃないですか。私が嫌って言ったのは…弁慶さんが迷宮に行くのに私を置いてこうとした時だけです。もうどこに行くのも私を置いてかないでくださいね!」
「あれは君を傷つけまいと選んだ手段でした。しかし…物理的に君を守ることは出来ても、精神的に君を傷つけてしまっていたかもしれませんね…」
「弁慶さんは、優しい人だって、知ってます。酷いことをしているように見えることも、本当は何かを守ろうとしているんだってこと。あれもそうだったんだってわかってます。だけど、私も弁慶さんを助けたいし守りたいんです。弁慶さんを傷つけたくなくて自分に剣を向けるくらい」

しん、と二人の間にしばしの無言空間が生まれる。
そして二人は同時にくすくすと笑いだす。

「僕たちはお互い、背負い込む性で尽くすタイプなんでしょうね。さて、どちらのほうが愛が深いか…見ものですね」
「負けませんよ!弁慶さんがどこへ行ったって、時空を越えてでも追いかけちゃいますから」
「わかってますよ。どこにも行きませんよ。どこかへ行くならば、一緒に、でしょう?」

おわり。オチなし

※君を想う5つのお題
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ときめきに策略

「弁慶さんいきますよーっ」

えいっ、という掛け声と共に良い音がしてバドミントンの羽が宙に舞った。スカートとは思えない望美のキレのあるラケット捌きに苦笑するのは、白いコートを着たままの流麗な軍師。

「君とこうして遊びに興じられるなんて…熊野以来でしょうか」

弁慶は嬉しそうに微笑んでラケットを振るう。

「熊野って…」
「君と、宿の子と、九郎と景時とでかくれんぼをした時以来ですね。あの時はまたこんな風に遊ぶことが出来るなんて思いませんでしたよ」
「私もです」

何気ない会話をしながら、スパン!とラケットの網が良い音を響かせる。

「弁慶さん」
「なんですか?」
「はじめてなのにうまいですね!」
「ふふ、そうですか?君に褒めてもらえるなんて光栄です」

どうして弁慶と望美が源氏山公園でバドミントンをしているのか…
そのきっかけは景時だった。
景時が将臣に借りたというラケットで望美を誘い、同じようにここで遊んだのだそうだが、頼朝像に見られている気がしていまいち集中できなかったということと、望美が上手すぎて景時では役不足だった。
帰宅し、練習するからまた付き合ってねと景時が凹んでいる所を通りすがったのが弁慶だったのである。

「でも君みたいに強い一撃を打つことはまだ難しいですね。羽を落とさないことだけで精いっぱいです」
「いやそれだけでも凄いですって」

男女が街に出る様な格好で二人でバドミントンをしているというのは奇妙なものである。
しかも男の方はスーツで女の方はスカートでやっているのだから、校外学習に来ていたらしい小学生の集団やハイキングに来ていたらしい老人会から視線を集めてしまっていた。

「えいっ!…あ」

望美が打ったロケットがふわりと風に流される。
ことんと地に落ちた羽を拾い、弁慶は望美に歩み寄る。

「さて、そろそろお昼の時間ですね。帰らないとせっかく譲くんが作ってくれたお昼ご飯が冷めてしまいます」
「そうですね。また来ましょう、弁慶さん!」

望美は笑顔でロケットを受け取る。
ケースにロケットを仕舞うと、重いでしょうからと弁慶がラケットを奪い取っていく。
そんな二人の頭上をゆったりと鳶が滑空していた。

「この辺りは鳶が多いんですね」
「よく飛んでるんですよ。食べ物持ってると取られちゃったりするんです」

ほらあそこ、と望美が指さす先にはトンビ注意の張り紙があった。

「面白いですね。平地の方はあんなにも栄えているのに、山の方はこんなにも自然が豊かだ」
「鎌倉は自然が多くて有名なんですよ」

望美はガイドになったつもりで話し出す。

「あ、そうだ。ご飯食べた後買い物に行かなくちゃ」
「買い物なら昨日沢山したのでは?」
「それは譲くんちの分ね〜。自分のシャンプーがもうなくなりそうだから」

弁慶は何か閃いたらしいが顔には出さず平然と望美に提案する。

「望美さんの髪は長いのに絡みませんね。何か秘訣があるんですか?」
「秘訣…?う、うーん。リンスとコンディショナー使って、あと、寝癖直しを持ってるんですよ」
「寝癖直し…興味深いですね。僕もあちらでは被り物をしていたのであまり気にしなかったのですが、何かを被らないと髪が跳ねるのが気になってしまいます」
「じゃあ弁慶さんも一緒にシャンプー見に行きましょう!おすすめの寝癖直しも教えちゃいます」
「それは嬉しいですね。是非お願いします」

ふふふと笑って歩いていく二人だったが、望美はどうやったら弁慶の髪の毛をいじらせてもらえるかと考えてにやにやしており、弁慶も弁慶で望美と同じシャンプーを使ったらヒノエにいい牽制になるなと考えてにやにやしていた。
ちなみに、あの二人の関係はどんな関係なのだろうと奇異の目を浴びせられていることに望美はまったく気付いていなかったのであった。

※好都合な5つのお題
http://lyricalsilent.ame-zaiku.com/index.html

太陽神の贈り物を尋ねて8

イザ一行はサマンオサの洞窟の地下二階で宝箱を開け続けていた。
まずイザがインパスを唱え、色を判別してから箱を開ける。
中身はたったの24ゴールドから命の石まで千差万別であったが、開ける価値はあった。
貴重な命の木の実もあったからだ。

「しっかし、ないね〜」
バーバラは開けたばかりの宝箱の蓋を閉じてその上に腰を下ろした。
「やっぱり『奉納』なぁんて言うくらいだし、祭壇とかあるのかな…」

「月鏡の塔もあれだけしっかり鏡が守られてたものね」
と、ミレーユ。

「地底魔城より悪いよここ〜、だって地面ぬるぬるなんだもん」

バーバラが片足を持ち上げてブーツの底を確認したそのとき、バーバラの座っていた宝箱が急にがくんと沈んだ。

「きゃっ!」
「バーバラあぶないっ!」

とっさにミレーユがバーバラの手を引く。
そこに、宝箱の陰から黒い影がすうっと伸びて怪しげな形をとった。

「ヒャド!」

ミレーユが魔法を唱え、氷の刃が影を襲う…と誰もが思った。
しかし実際は逆になっていた。
ミレーユに氷の塊が降り注いだのである。

ミレーユに突き飛ばされて無事だったバーバラが地に座り込んだままギラを唱えるが、影の使うヒャドはヒャダルコレベルの強さで、バーバラは唇をかみ締めてベギラマで対抗する。
氷と炎のぶつかりあう光で剣を握った男たちは立っていることが精一杯だった。
チャモロマホトーンで影が沈黙すると、イザとハッサンは飛び出して影を切り裂いた。

「ミレーユ!!」

宝箱のあった場所には大きな穴が空いていて、穴の縁をミレーユの細い腕が必死に掴んでいた。
イザはミレーユの腕を掴み、引き上げようと両足を踏ん張った。

ザラ…

泥だらけの洞窟に砂の崩れる音が聞こえる。
それは要するに、どこかが崩れることを示していた。

「く…!」

ミレーユを引き上げようとしたイザの足元もひび割れて崩れていく。

「イザ!」
「あっちへ逃げろっ!」

バーバラとハッサンが後退するのを確認したイザは、ミレーユの腕をしっかりと掴んだまま暗闇の中へと落下していった。

太陽神の贈り物7.5

「ぎゃあっ!…なんだよ、イザ、ひやっとしたじゃねえかよぉ」
「ごめんごめん、悪気はなかった」

サマンオサの洞窟は沼地の真ん中、古びた橋を渡った先にあった。
朝起きたイザたちはカンダタが手紙を残して別の手がかりを探しに行ったことを知り、自分たちだけで洞窟を探索することに決めた。
地図を片手に、用意周到なほど薬草を買い込んで慎重に洞窟へと向かったところである。
鉄の橋は沼地の成分で変色がひどく、周辺にウロウロしているゾンビマスターの奇抜な黄色と赤と緑の装束も手伝って気味の悪さを存分にかもし出していた。

洞窟の中は地上よりも暑かった。
ところどころに水溜りが出来ているが、水はどれもぬるい。
チャモロが推測するに、これは地下水で、この暑さは火山が近い証拠なのではないかということだった。

階段を降り、地下二階に着くと、何もない一階とは打って変わって宝箱だらけだった。

「なんだこれ!」
「おい、開け放題か?まさかの」
ハッサンが近くにあった宝箱をあけようとしたので、イザはとっさにインパスを唱えた。
しかし、イザが赤い色を認識するころにはハッサンはもう箱を開けてしまっていた。

「うわああああ!」
「ハッサン!」

箱の中からは不気味な目と舌が飛び出し、重たい箱とは思えないスピードでイザたちのほうに跳びかかってきた。
弾丸のごとく跳んできた箱はチャモロの槍に跳ね飛ばされたが、まったく効いていない様子で再びこちらに向かってくる。

ミミックだっ!」
ミミックはザキをつかうよ!気をつけて!」

バーバラがギラの呪文でミミックの視界をさえぎった。

「走れ!」

一行は大急ぎで階段を駆け上った。下から跳ね上がってくるミミックにイザはルカニを唱える。
ハッサンが大きく地を蹴って、ミミックめがけて飛び降りた。
「くらええええっ!!!」
上から飛び降りたハッサンの足がミミックの鉄の体に叩きつけられる。

「グェ!」

ミミックの体にびしっとヒビが入り、床に落下した。
舌がびくびくと動いているのを見てイザは剣を振り下ろした。

「あー、死ぬかと思った…。これからはインパスかけてから開けような…」