太陽神の贈り物を尋ねて7

「ここがサマンオサか…」

今まで居たランシール、アリアハンは海の国であり南国で暖かだったが、
途中で通ったバハラタは乾燥した大陸、グリンラッドは驚くほどの雪景色…
もとの世界であれほど雪が積もっている場所をイザはまだ見たことがなかった。
もっとも、人生の大半、つい最近まで山の上だけで暮らしてきたイザにとってはほとんどがはじめての場所なのであるが。

また、グリンラッドの祠は井戸とは大違いの空間であった。
三箇所のほかの祠と繋がるグリンラッドの祠には、要するにイザたちからすれば井戸が三つもあるように思えた。
きちんと壁で仕切られており、どこへ行く旅の扉だと親切にも札がつけられている。
この世界はイザたちのいた世界より進んでいるのだろうか。
それとも、イリス人たちが造った月鏡の塔のように、イザたちの時代には忘れられてしまった世界なのだろうか。

そしてここサマンオサはそれとはまた違った空間であった。

高い山に囲まれて海は見えず、荒々しい山地に起伏の激しい大地、そこを流れる一本の大きな川…
時折姿を見せるのは仮面を被った人型のモンスター、ゾンビマスターだ。
縄張りに入り込んできた侵入者だと思って襲ってくるようで、山地から離れて平坦な草原に出るとゾンビマスターの姿はまったく見えなくなった。

「ゾンビマスターは、もともとは隠れ住んでる生き物だ。
あれが草原や城の近くに頻繁に出てたあの頃が異常だったに違いねえ」

カンダタに連れられて道なりに進んでいく途中にも、種類は違ったがいろいろなモンスターに出会った。
バハラタ周辺で見た紫色のゴリラよりも一回り以上も大きな緑色のゴリラ、ベホマスライム、妙に甲羅の硬いガメゴンというワニだ。
カンダタに教わったのは、正攻法では効率の悪い敵もいるということだった。
ガメゴンルカニをかけてから剣で倒しにいくよりも、遠くからチャモロが習得したばかりのザキで一発を狙うほうが効果的だということだった。
ザキはすべての敵に必ず効くわけではないし、回復できる魔力は残しておかないといけないが、結局回復につかう魔力のほうが多くなっては意味がないとカンダタは教えてくれた。

サマンオサの城下町に到着するともう暗かったので一泊することにした。
明日の朝、洞窟に向かうことになる。
イザたちは酒も控えめに布団にもぐった。

太陽神の贈り物を尋ねて6.5

カンダタの言った通り、サマンオサの城にはなかった。
だが幸い、サマンオサの王族がサマンオサの洞窟に奉納しなおしたことを聞くことができたので、一度奉納したものをまた借り出すのもあれだが、洞窟に向かうことになった。

カンダタはイザたちよりも遥かに強かった。
ハッサンはカンダタにイリスに似たところを見出したらしい。
重量級のパワーがありながらの鋭く素早い攻撃に感動して、カンダタから秘訣を聞き出そうとしているようだ。
カンダタもそう易しくない。盗賊が手の内を明かすわけないのである。
…つまり、自分で見て盗めということである。

イザ一行だけではパワーとスピードを両立する攻撃手はいなかったので、カンダタから盗めることがたくさんあった。
ヒートギズモや紫色の気味の悪いキノコなどの野良モンスターを蹴散らしながら、カンダタと共にバハラタの北西にあるオリビアの岬へ向かった。

リビアの岬は静かな湖に接する半島の先端部分である。
大昔、水難事故で引き裂かれた恋人の悲しい魂がさまよい、船が転覆する事故が多発した。
湖に身を投げた女の名前がオリビア…かつてオリビアの悲しい叫びが聞こえるたび船が転覆させられた岬、それがオリビアの岬なのである。

リビアの岬には船着場以外に宿屋と堅牢な祠があった。
東の山脈を越えた先のさらに先の先にある極西のポルトガという国から派遣されてきたという兵士が警備をしているその祠は、東の果て、グリンラッドに一瞬で飛ぶことのできる「旅の扉」なのだという。

カンダタに連れられて祠の中に入ると、どこか見たことのある景色だった。
「これ、あの井戸に似てない?」
イザは不思議とはじめてな気がしなかった。
「この光の漏れ方、確かに似ていますね」
と、チャモロ

元いた世界には二つの世界をつなぐ井戸があった。
その井戸にそっくりなのである。
ただし、井戸ではなくてただの四角い空間から青い光が漏れているだけなのだが…

「見たことあったのか。不思議なもんだ、どこの世界にもあるのか」
「ってわけじゃないとおもいますけど…」

イザは苦笑しながら青い光に足を踏み入れた。

太陽神の贈り物を尋ねて6

ルイーダの酒場を出たイザたちは再びアリアハンの港へ行き、バハラタ行きの船に乗った。
ランシールからアリアハンに向かうよりもはるかに時間はかかったが平和な船路で、出たモンスターといえばしびれくらげマリンスライムくらいであった。

平和な海にかもめの鳴き声が響き、人々がおびえることなく生きている姿を目の当たりにして、イザたちは自分たちの世界のことを思い出す。

「俺たちは…はやくラーの鏡を手に入れなきゃ」

ただ、ラーの鏡を手に入れても、また壊されてしまうことだけは避けなくてはいけなかった。どうすればいいのか…
そう思ってぼんやりとバハラタの宿で日が暮れるのを待っていると、部屋の戸を叩く者が居た。
この世界に知り合いはほとんどいない―――警戒したイザたちは顔を見合わせ、部屋の中に居たチャモロとミレーユが武器を手に取って戸の脇に隠れた。

「はい―どちらさまでしょう」

イザが戸を開けると、そこには大柄な男が立っていた。
年は四、五十歳だろうか。年よりも目を引くのはその外見だ。
総髪に鬚髯、我の強そうな…自信に満ち溢れた野性味溢れる男である。顔は、眉が濃くて目も大きい、あちこちに戦いの傷であると思われる痕が見えた。
服は旅慣れた装束で、腰には大振りな剛剣がさしてある。
戦士というよりは、盗賊に見えた。

「俺は、カンダタ。ルビス様のお客ってーのはあんたたちかい」
「!」

驚くイザの肩を押して部屋に入った男は、しーっと指でイザたちを黙らせ、ミレーユとチャモロに武器を下ろすよう手で指して戸を閉めた。

チャモロが疑い深く尋ねる。
「ルビス様の…と言う割に、失礼ですが、そちらは盗賊のようにお見受けします」
「ああ、元盗賊だよ」
カンダタは両手の手のひらをぱっと見せて、隠し持ってるものがないことを見せた。
「俺はもともと義賊だった。王様の冠盗んだり、貴族の屋敷を襲ったりしてた。
そんなとき、勇者アレルにやられて改心したのよ。
あいつの親父には世話になってた。
その親父が死んだって聞いて、俺も黙ってられなくてな。
アレルが魔王を倒しにいくって聞いて、いろいろ情報集めしたりしたもんよ。
ルビス様が俺の枕元に現れて何か言ってったのはその魔王を倒したって時と、ついおとといだ」

カンダタの眼光が鋭くなった。

「この世界に客人が訪れている、ラーの鏡を探す手伝いをしてくれ…と」

「元盗賊の出番、というわけね」
と、ミレーユ。

「ああ…そこから俺なりに少し調べてみたんだが、アレルたちがサマンオサから持ち出した後どうなったのかがいまいちはっきりしねえ。
ひとつ、サマンオサの洞窟に戻した。
ふたつ、サマンオサの王族が保管している。
みっつ…これが一番最悪だ、行方がわからないアレルたちの誰かが持っている」

「あまり長い時間がかからないといいけど…。
私たちがこっちに来ている間むこうの時間はどうなってるのかしら」
「それはしらねえが、どのみち鏡がないと駄目なんだろ。
潔くあきらめて鏡に集中したらどうだ、姐さん」
「そうね…」

カンダタは鼻をかいた。

「ともかく、サマンオサの城にあるかどうかはもう明日の朝にはわかる。
城にないようなら洞窟にいってみるっきゃねえ。
今日は休んで、明日から大急ぎでサマンオサに向かってもらうぜ」

【性別反転主ミレ4】

主ミレの性別を逆にしました。苦手な方はよまないように

「王女さまは大人におなりになりましたのねえ。昔はこうやってドレスを着させようとするとイヤイヤって暴れて、そりゃもう、手がつけられなくて」

記憶を取り戻して父と母の所に戻った所、王女の帰りを国民に知らせなければとかで着飾らされることになってしまった。

(ドレスか…)

前、記憶がまだ戻らなかった頃、レイドックの城下町でミレーユに言われたことがある。
ドレスがきっと似合うと。
記憶を失う前、どうしてもドレスは着たくなかった。
王子として生きてきたという変なこだわりがあったから。
ずっと、どうして男に生まれなかったんだろうと思っていた。
胸をさらしで巻くたび、月のものが来るたび、女であることを恨んだ。
そう、女でよかったと思うことはなにひとつなかった。

(ドレス、似合うって言ってくれるかな)

やはり、頭に浮かぶのはそのことだった。
みんなが似合わなそうとはやし立てる中、似合うほうに一人賭けたあの男のことだ。

「さあ、できましたよ」

自分で鏡を見るのが怖くて、差し出された鏡から顔を背ける。
昔習った通りに裾をちょこんと持って、音を立てずに立ち上がる。
慣れない踵の高い靴にぐらぐらしながら扉を開けると、仲間がこちらを見る。
大げさに唖然とするバーバラやハッサンを見て満足げに微笑むきれいな人が、意地悪に一言、

「王女さま、裾を踏まれてますよ」
「!」

直そうと足を持ち上げると慣れないドレスが足に絡まってよろけた。

「おっと」

すっと差し出された腕が体を支えてくれた。

「どうぞ王女さま、ご案内いたします」

嬉しそうにくすくすと笑う金の男を上目遣いでにらんで、湯気が出そうな顔を伏せた。
後ろで誰か(あきらかに複数)がヒューヒュー言っているのが恥ずかしい。ドレスなんかもう着てやるものか。

【性別反転主ミレ3】

主ミレの性別を逆にしました。苦手な方はよまないように

金の長い髪をそよがせ、手には奇跡の剣を握り締め、夕焼け色の帯を風になびかせる背の高い男の凛々しい後姿。
前から覗き込めば、今度は神の像のような彫が深くて整った白い顔に切れ長の目が色を差し、濃い上着に白い服、魔術師のサークレットを身に着けたどこか異国風の旅人。

バイキルトの声、メラゾーマの声、自分と背を合わせて魔物の中を、本当の獣道を走りぬける魔法戦士としての声。
ハスキーで響きがあってどこか色っぽい声なのにテンションは低い。
その声が、自分にホイミをかけてくれる時は、心配してますって顔してるのにテンションが高く。

「また、思いつきで敵陣の真ん中を突っ切るから」

と口では文句を言いつつ、優しく治療してくれる。

「ごめん」

「本当に、手がかかる子だ。いけない子だよ」

苦笑し、細い白い手で包帯を巻いてくれる。

「ミレーユが、治してくれるってわかってるから」

「こらこら」

ぺし、と額を指ではじかれ、額を押さえる。

【性別反転主ミレ2】

主ミレの性別を逆にしました。

苦手な方はよまないように

「僕が王女様に似てるって?…あはは、そんなわけないって、ライフコッドの村娘だよ?牛の扱いなんて男よりもうまくて、男勝りーなんて言われてた僕が王女様に似てるだなんて」

何も知らないイザはからっと笑う。
知ってる者は複雑だ、とミレーユは思う。
彼女は村娘で男勝りだから一人称が僕なのではない、彼女は当初王子として生まれたことになっていた。つい最近まで王女と公表されていなかったのだから。彼女自身も王子として振舞うことに慣れてしまっていたが、弟王子が亡くなった際、両親が王子の姿で頑張る姉王女を見て王女と公表することを決めたのだと聞いた。

記憶を無くす前に出会った時も、彼女は男物の服を着ていた。
そして腰に細身の剣を差し、胸にはきつくさらしを巻いて、男としてムドー討伐に向かうつもりだった。
女であることをオープンにすることは、長年王子を演じてきた彼女にとって、負けることだったのかもしれない。
だが、女であることを認めて何も知らない彼女はなんと生き生きしていることだろう。

「ミレーユまで、僕にドレスが似合うと思ってるの?」
「似合うと思いますよ」

えー、と不満げな顔で見上げる彼女に微笑みかけた。

「でも王女は最近まで王子として生きてこられた方、男物の服で活動なさってたそうです」
「それは気が合いそうだ」

楽しそうにするイザを見て、あなたがあなた自身であるのに、とムドーの戦いを思い出して苦しくなる。
次は勝たなくては、次こそは勝って…

【性別反転主ミレ】

主ミレの性別を逆にしました。
苦手な方はよまないように



太陽に愛される子。
青い髪、青い目の、男勝りな美少女が走り抜けていく。

「やあああああっ!」

ザクッ、肉が断たれる音の後、地に降り立つ身軽な足音。
目を閉じていてもその光景は想像するに容易かった。

「ミレーユ?」

目を閉じている自分の前に小さな気配が近づいてくるのもすぐわかった。

「どうしたの?疲れた?」
「ちょっと、魔力を回復してただけさ」

立ち上がって土ぼこりを払う。
前を見ずに立ち上がろうとすると、すぐ目の前に彼女の顔があった。

「っと、失礼…」
「…!」

あまりの顔の近さにさっと顔を赤くした少女はぱっと背を向け走っていった。
その様子がおもしろくて、くすくすと笑って、ふとある人物のことを思い出す。

「テリーも、生きていればこのくらいの年になるのか…」

イザが太陽の子なら自分は月になろう。
記憶を取り戻し、魔王を倒すまで、彼女を支え続けるんだ…