すごいよ!アギロさん

※物語終了後のネタバレを含みます。なお、ここに記されている内容は適当に考えただけなので公式設定ではありません!あしからず!そしてオチはなし。よくわからん。

今回もナインは男。

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キュッキュッという音が箱舟の中に響いていた。ナインと仲間たちは音の聞こえる客席車両の方を見遣る。
「働き者だなあ…」
ぼーっと見ていると、重そうにバケツを持ったサンディから怒声が飛んできた。
「ちょっとアンタ達!何見てんのヨ!」
さすがに手伝いなさいよとは言わないようだ。
「もぉ、テンチョーマメに働き過ぎだしィ…」
ヨロヨロと客席車両に飛んでいくサンディを、アギロのよく通る声が急かした。
「サンディ!バケツまだか!」
「今行きます、今ーっ…」

金色に輝く客席車両を真っ白な雑巾で拭いているアギロは、普段の締まった顔つきではなくどこか穏やかで優しげだ。
「乗る人も居ないのに、どーして毎日掃除しなきゃイケナイワケ?」
彼は不満そうなサンディに言った。
「お前はこの箱舟の価値をわかってないな」
「当ッたり前ジャン!」
どこか遠くを見るように上を向いて彼は言う。
「箱舟は天使を運ぶために生まれた。本来はもう存在が無くなっていてもおかしくない物なんだ。それがこうして存在している、その理由を考えたことはないか?」
「ええーっ…、ナインが使ってるからじゃナイ?…あ、ダジャレじゃないからネ?!不可抗力ってやつだからっ!」
「さすがにまだ小娘にはわからんか…」
「ふん、テンチョーみたいに年季はいってナイし」
アギロは腕を組んだ。
神の国という癖にあんなに広くてセレシア様しか居ないだろう?最初は俺も、天使界で役目を果たした天使たちを神の国に連れて行って住まわせるんだと思ってたんだが…結果は見ての通りだ」
「女神サマは天使たちを全員星にしちゃったしねぇ」
「当面、ナインと俺たちの仕事はセレシア様のお父上、グランゼニス様を探すことだが、それにしても二人であの国に住むには狭くないか?それに、天使たちが星になることは、天使たちも望んだことなのか?神様が人を試すために作った天使だけど、天使は天使で一人一人個性があって人間と変わらないはずなのに」
「…で、だからどういう…?遠まわしでわかんなくなってきたんですケド…」
神の国の新しい住人たちを選んで運ぶためにこの車両は存在してるんじゃないかって思うわけだよ」
「テンチョー考えすぎじゃ?」
「やっぱそう言うか」
「そんな高尚なコト、あたしたちが考えもしませんって」
「ナイン、おまえはどう思う?」
いきなり話題を振られて、ナインは慌てて立ち上がった。しびれた足がもつれる。
「神に救われる思想が強い長老様がたのことだから。大半の天使はそれで満足してるとは思うよ」
「じゃあ満足しない天使は?」
「…僕とかイザヤール様とかエルギオスみたいな、下界をよく知る天使は満足しないかな。人を救うことが天使の仕事だから救うんじゃなく、困ってる人がいるから救いたいと思う、だから何らかのことをしたいと思う、そういう天使だったら、いつまでも人の中で人を救いたいと思う」
サンディが頭を抱えた。
「アンタって、本当に根っからのお人よしね」
「妖精は根が仁では出来てないんだね」
「うるさいわねっ、妖精ってのは基本お気楽主義なのヨ!」
アギロが笑った。
「人の中にもそれに近い人は居るかもしれない。もしくはもう死んでいる人かもしれない。世界に必要なことならセレシア様も良しとすると思うが、セレシア様自身だってお寂しいとは思うんだ。話せる相手が実のところナインくらいしかいないしな」
「セレシア様は、輪に加わるより見てるほうがスキなタイプなんじゃない?」
「それはありえるが…」
「テンチョーのおせっかいだと思うケド」
「おせっかいでも構わん!とにかく!もし次エルギオスのような存在が生まれたら次は誰が世界を助けるんだ!天使界もないのに!それが二つ目の理由だ!」
半ばアギロの自論に流されながら二人は口を開いた。
「確かに…」
「そこは説得力あるわネ…最初からそう言えばいいのに」
「あぁ?何か言ったか?!冷血妖精とは違って俺は情に厚い男なんだよ」
「アタシ冷血じゃないしっ!!」
アギロは雑巾をサンディに突きつけた。
「冷血じゃないってんならこの車両は今日からお前が掃除をしろ。もう一両は俺が掃除をするから」
「なんでそうなるワケ?!」
「お前もいつかは小娘じゃなく妖精様になる。選ばれし人をこの車両に乗せることになるだろう。そのときに胸を張っていられるように今から掃除しておけ」
言葉を詰まらせたサンディが渋々雑巾を受け取った。
「それ以前にアタシがセレシア様の友達になればいいジャン…?」
「お前はまた!そうやって無礼ばっかりだ!」
「はいはい掃除しますぅ…」

ナインは窓の外を見た。雨の島が見える。そこに生えた大きな木が光を浴びてきらきらと輝いていた。