金色の願い(後編)

ぱしっ、小気味良い音が響いて矢が打ち落とされた。コロンと転がる小石を見ることコンマ数秒、正確で力強く威圧的なその行動に驚いて、ナインは弓を構えたまま振り返った。しかし目の前に立つ人物に唖然として言葉に詰まった。

「イザヤー…」
「なんのつもりで矢など射てるのだ、誰かに刺さったらどうする」
「…」

羽根は生えていない。天使の輪もついていない。腰に重そうな剣を下げて、両手を組んで呆れたように小言を並べ立てるところは変わっていなかった。

イザヤール様…!」

幻でも構わない、飛びついて、いまだけでもそのぬくもりを感じることが出来たら…。

「お前は大きな子供か、大人気ない」

抱きしめた体はがっしりと筋肉質で、幽霊のように通り抜けたりはしない。言葉はきついけれども声色は優しく、ナインの頭を撫でる手は角ばっていて力強かった。

「…色々迷惑をかけてすまなかった」
「ほ…ほんとですよ、皇帝も、エルギオスも全部僕に任せていっちゃうんですから…!師匠の師匠だからって、憎くてたまらなかった」
「すまなかった」

目を閉じると、頬を涙が伝った。泣いたのは初めてかもしれない。イザヤール様が消えたときも怒りの衝動のほうが大きくて涙が出なかったから、今やっと流すことを思い出したのかもしれない。
エルギオスと戦っていた時も、どんな時も、凹んで何も出来ない自分をイザヤール様が見たらどう思うだろう、そればかり気にしていた。見たって叱咤するような空気の読めない人じゃないのに、こう会ってみればそうわかるのに、あのときの自分は辛いことを紛らわすように別のことに打ち込んでいようとしていた。

「これからは一緒に侵入者を探そう」
「…はい」

宿に戻るまではせめて、このぬくもりの中で甘えていたい…

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しまりのないEND!!