新世界のオルゴール続き

しばらく放置してましたがまたメモ帳として使うことにしました♪

          • 本家連載のつづき-----

ゼニスの城は夢の世界になかった。正確に言うと、空に浮いていたのである。
ファルシオンが翼を広げて飛び、一同は城の正面階段に足を降ろした。

「みましたか、この城の下」
チャモロが言う。ハッサンが答えた。
「みたみた、大地から引っこ抜いてきましたってー大根みたいな土付きだったぜ」
「ちょっと神秘性に欠けますね」
「あの部分ってなにかあるの?根とか」
と、バーバラ。
「俺の記憶ではあんな形の地下室は無かったと思うが…」
「あったのは井戸じゃありませんでした?」
「!」
「そうだった、はざまには城の井戸から行ったんだっけ!」
井戸の部分、つまり長い管のようなものをぶらさげたままこの城は動いているのだろうか。
「それよりは土でいいかも…」
「ですね…」
「だな…」
「低いところ通過したらひっかかっちゃうかもしれません」
「折れるかも、ばきっと」
「夢の城だからすり抜けちゃうかもしれないぜ」
三人の話し声は聞こえないらしい、テリーとミレーユは神妙な顔で一歩も動かずに立っていた。
二人の背を押してイザは言った。
「まずゼニス王に話を聞こう」

ミレーユの顔がいっそう白いのを見て、イザは肩に手を添えた。
「顔色悪いよ」
「それは…だって、自分の親が人じゃないなんて思ったら」
ミレーユは遠い目をして眉間に皺を寄せたので、バーバラが言った。
「人じゃないからって例えばテンツクとかリップスとかそういうのばっかりじゃないでしょー。
あたしだって人から生まれてないし。
石像から生まれてるんだからさぁ。大丈夫大丈夫!」
バーバラは続ける。
「まぁあたしの場合イヤな意味じゃないし、説得力にかけるかもだけど。
石像よりはよくない?喋ってくれるよ」
「バーバラ…」
バーバラはカルベローナの町の人に育てられたのだ。
もちろん親代わりが居たから、誰が本当の親などとは考えたことはなかっただろうけれども。
「そうよね、不安がってても仕方ないわ」
ミレーユは肩をすくめて苦笑した。

王座の間に着き、ゼニス王に事情を説明すると、王は首をかしげた。
「確かにそれは事実じゃ、しかしその話はこの二ついや三つあった世界のトップシークレットじゃ。誰だか知らんがそんな風に二人に回すとは…二人にはおいおい言おうと思っていたところなのじゃ」
「…どういうことです」
ミレーユは青白い顔で問いかけた。
「バーバラが孵すことになっている卵をみたかの」
はい、とイザ。
「あの卵には希望が入ってるとかかなりぼかしたことを言われたんでサッパリでした」
「はっはっは、そりゃそうじゃ。何が生まれるのやらわしにもわからんのじゃ!」
ゼニス王は盛大に笑って、急に真面目な顔になった。
「ここだけの話じゃ。現実世界や夢の世界で口外してはならんぞ。誰が聞いているかわからんのじゃ。いいか、ただひとつわかることは、あの中から生まれてくるのは…か、み、さ、ま、だということだけじゃ」
「神様?!」
ひときわ大きく声を上げたのはチャモロだった。
「神様が卵からお生まれになるんですか?しかも生まれながらにして神様なんですか?」
「神の大半はゲントの神や精霊神ルビスのように元は神でない存在であった者が召し上げられて神になったが、生まれ着いての神というのも居ないわけではないぞ」
「それで」と、ハッサン。「その卵の中身の神さんとどう関係があるんだ?」
「この世界以外にも世界というものはたくさんある。
夢の世界と現実世界のように表裏一体になった近い世界はちょっとした歪みで飛び越えることができるんじゃが、そうでない遠い世界に行くためには特別な魔法か特別な翼が必要じゃ。
例えば精霊神ルビスは不死鳥に乗って世界を移動してきたと言っておった。
あの卵から生まれる者はおそらく特別な翼を持っておる。
この世界に生まれ、成長したらここではない世界に飛び立っていき、魔物と人間とがわかりあえる世界を目指すのじゃ。
しかし、世界を作るというのは…おぬしらには想像できないことじゃろうが、とても大変なことじゃ。
だから、少しばかり種を持っていく。
前の世界で成功した生き物の種を少しずつ持っていって、新しい世界に混ぜるのじゃ」
「え、それって地面に吸収されたりすんの?」
「違うわい、そこの世界で暮らすということじゃ」
「移民みたいなもんか…」
テリーが渋い顔でつぶやいた。
「まさか、俺と姉さんに移民しろっていうんじゃないだろうな」
「最初はそのつもりじゃった」
「ふざけんな!」
「最初は、じゃ!」
ゼニス王がいきりたったテリーにウィンクした。
「しかし、望まない者を無理やり連れて行くのは…それこそ神の勝手な事情じゃ。
デスタムーアの勝手な事情で世界が引き裂かれたのと同じじゃ。
だからわしはおぬしらには無理して来いとは言わぬ、が、
わしらではない神々はおぬしらを移民させると会議で決定してしまった。
変更するわけにはいかんのじゃ。
じゃが、誰も絶対今のおぬしらでなくてはならないとは言ってはおらん。
何年、何十年経っても構わん。
…おぬしらが行くのが嫌であれば、おぬしらの血を引くものでも構わんということじゃ」
それって、とバーバラが二人のほうを見る。
ゼニス王が朗らかに笑った。
「新しい世界はおぬしらの血脈を必要としておる。
別世界において笛でドラゴンを呼び寄せその背に乗ることができた者。
別世界において一時魔に染まりながらも導かれし仲間になった者。
おぬしらが来るか、それともおぬしらの子孫が代わりに立つか、それを決めるのはおぬしら自身じゃ」
「えっと…」
ハッサンが口を挟む。
「話がでかくなりすぎてついてけなくなってきたんだけどよ、つまりいつかは行かなきゃならねぇってことか」
「そうじゃ」
ゼニスは頷く。
「バーバラが卵を孵した後になるが、この娘もいますぐ卵に向き合う気は無いらしいのでな。
神々の世界では数十年くらいたいしたことではないのじゃ。
さすがに数百年経つといつの間にか新しい魔法が増えていたり、治めている世界の地形が変わってたりするんじゃが。
…さて、話はこれで終わりじゃ。
最後に世界中の雫を作っている部屋の隣の部屋に居る者に会っていくと良かろう」
「それは、まさか私たちの両親、ですか?」
ミレーユの声が震えている。
ゼニス王はゆっくりと頷いた。
「…そうじゃ」