新世界のオルゴール続き3

ゼニス王の城の一角、窓の外から差し込むやわらかい日差しの下に背丈の短い草が生えている。その草の上に安置された不思議な色のだいぶ大きな卵を、バーバラは頬杖をついて見つめていた。
(何が入ってるのかなあ…)
バーバラには孵し方は分からなかった。ただ、本能的にこれを開けることを知っていただけである。だが、まだ開けることはできなかった。開けることは、ある人たちを急がせてしまう。…バーバラにはいつ開けるか分かっていた。
「なにしてるんだこんなとこで」
「テリー」
バーバラはしゃがんでいた足を伸ばし、腕を組んで仏頂面をしているテリーを見た。
「卵をちょっとみてた」
「でかい卵だな」
テリーは卵に近付く。
「俺がアークボルトで壊した緑色のドラゴンの卵に似ている」
「あんなヌメヌメと一緒にしちゃかわいそうだって」
「ふん、かわいそうもなにもあるか」
テリーは卵にむしろ好意を持って接していた。うっかり割らないように距離をとっていたし、表面を撫でてみたり眺めてみたりしている。
「あんた意外と…動物好きなの?」
「昔よくモンスターと遊ぶ夢をみたりしたな」
彼は遠い目をしながら微笑んだ。
「モンスターにもちゃんと両親がいるんだ、けど両親は子供の入った卵を置いてどこかへ行ってしまう。生まれた子供は別の誰かに育てられる」
「なにそれ、なんでそうなっちゃうわけ」
「さあな。俺にもよくわからん。あの世界のルールだったんだ」
卵の表面が虹色に光った。
「この卵にも親はいたんだろうか…。ま、俺に魔物と天女と人間の親がいたんだからこいつにだっているだろうが」
「…卵の親はあたしだし?」
「お前に動物育てられんのか?大丈夫なのか?」
「いつもファルシオンの世話してるもん!」
「エサしかやってないだろ」
「しかって…」
バーバラはテリーを睨んだ。
「みてなさいよ、超かっこいい子に育てるんだから。テリーなんてちょいっと倒してみせるんだからっ」
「俺に勝とうって?ハッ、そんな無理な目標立てるなよ」
「馬鹿ね、デュランにもイザにも負けたくせに」
「あれは正気じゃなかった」
「じゃああたしが今マダンテであんたを!」
「唱え終わる前に口を押さえればいいんだろ!」
二人は顔を近づけて罵り合っていたが、ふと口を閉じる。何か小さな音が卵の方から聞こえる気がしたのだ。
「おい、なんか音が聞こえる」
「動いてる?」
バーバラが卵に触ると、卵が少し揺れた。
「テリー、動いてるよ!」
「どれ」
テリーも手を乗せる。卵がまた揺れた。
「何が入ってるんだろうな。俺の予想はドラゴンだ。このサイズは間違いない。それもかなり大型」
「卵に詳しすぎ、あんた。モンスターマスター?」
苦笑しながらテリーは卵を撫でる。
「懐かしいな、なんか。なにもかもが。懐かしいのにこんなに近い」
テリーはこの卵とその中にいる存在に不思議な親近感を覚えた。
「バーバラが親じゃ立派になれないだろ、俺が育ててやろう」
「ちょっとやめてよ!テリーに育てられたらひねくれそう!」
「なんだと?!」
また二人はわぁわぁと口喧嘩を始めた。その声の中、卵は嬉しそうに揺れていた。