幼少ぱられる3
「そろそろ海に出るぜ」
ハッサンの声を聞いて、イザは我に返った。
父がムドー討伐に出かけて目覚めぬ眠りに入ったのち、母もまたムドーの研究をしすぎて目覚めぬ眠りに入ってしまった。
これは自分で倒してくるしかないと計画を練っていた夜、抜け出そうと庭でごそごそしていたところ、忍び込んできたハッサンに出会ったのだ。
意気投合して改めて準備を重ねた二人は今夜、船に乗ってムドーの島を目指すことにしていた。
レイドック郊外、海に近い場所にレイドック国の軍用船のドックがあった。
不思議なことに門の警備員たちはみな眠りこけており、イザたちは何の苦労もすることなく中に入り込むことが出来てしまった。
レイドックの紋章がついた王族用の船の前に、誰か人が立っている。
「イザ、ハッサン。あなたたちが来るのを待っていたわ」
低めの女の声だ。ハッサンが身構える。
「誰だ!」
「わたしはミレーユ。あなたたちと一緒にムドーを倒しにいくの」
ミレーユ、金髪に青い目、美しい容姿、イザには一人だけ心当たりがあった。
ハッサンがたずねる。
「あんたに何ができるんだ?相手は魔王ムドーだぜ」
「逆に言うわ、ムドーの城は切り立った崖の上。どうやって行くつもり?船で島にはつけても城にはつけないわよ。わたしは渡る方法を知っているわ」
ハッサンとミレーユがしばし無言で対峙する。
その緊張感を持った様子が、イザには奇妙に安心を覚えるのであった。
ハッサンもミレーユも自分の味方だという根拠のない自信があるからだった。
「…どう?一緒にいかない?」
「城までいけねぇんじゃ始まらないしな、よろしく頼むぜ姐さん」
ハッサンがひょいと船に乗り込んで姿を消すと、ミレーユはイザのほうを向き、無言で頭を下げた。
イザは声をかけた。
「ミレーユって、あの、ミレーユだろ?」
「…ごめんなさい王子様、あたし抜け出してきちゃった」
ミレーユの横顔が月に照らされて、少し悪戯な表情がイザにはよく見えた。
金色の髪が海風にふかれて耳をさらけ出し、耳には白い真珠のイヤリングがついているのがわかった。
「真珠は身につける人を邪気から保護し、困難を克服する力をくれる…。
あなたがくれた腕飾りがあったから、ここまで信じてやってこれたわ。
今度はわたしがあなたの役に立ってみせる」
細い腕が差し出された。
「ありがとう、そして…よろしくね」