14巻終わり気味な部長
自分がアドバイスして、雨宮がそれで幸せになるのなら同居人として満足だった。最初はそうだった。てっきり手嶋と上手くやっているのかと思えば、話を聞いてみれば自分の見舞いに来たあの時にバレた自然体(だらしないとも言う)が原因で別れたのだという。自分が事故に遭ってなければあのまま続いていただろうか?
「でもいつかはバレる話だったと思ってるけどね、オレは」
自分も深雪とのことがあるから女の扱いが上手い男とは言えないだろう。しかし聞こえてきた話によると、手嶋は発表の場で雨宮との関係を断ったことに言及したらしい。
「いくらなんでも酷いな。流石のノーテンキ雨宮でもオレに話せないほどショックだったんだろう…」
目が離せない子、手が焼ける子ではあるけど何でも言い合えて自然な相手だった。むしろ言わなければ伝わらない相手だと最初から分かっているから、言うべきことはハッキリと言った。そういう関係だった。あの頃は。
男というものは普段はぱーっとしてるがそのときに傷ついた女を見ると保護欲が湧くというかなんと言うか、干物が干物なりに頑張ってこっぴどくやられてグズグズしてるのを見たら引っ張りあげてやりたくなった。この子はいろいろやりながら結局この家に帰ってくるんじゃないかと、そう思っていた。自分の手元から離れないでなんとなく毎日がすぎていくんじゃないかと思っていた。
「…そして姉さんにとっさに返したのが結婚、か…」
いざ結婚すると言い出していろいろなことを進めてみると、今まで一緒に過ごしてた割にそういう目で見ていなかった、近すぎて気付けなかった。意識してみるといちいち挙動不審なのもかわいいし、深雪とよりを戻すと思って心配して沖縄まで追いかけた来たりしたのが自分のためだと思い出すと面白くなってくる。
「娘じゃありません、か…」
雨宮は自分が精一杯何かをした後で無いと幸せになれない!と言い出して、自ら大阪へ転勤を望んだ。40過ぎのバツイチ男の将来を気にしながらもそうやって自分を貫く姿に彼女らしさが現れていると思った。
「いつでもキミは自由すぎる」
二人でまたビールを飲めるのはいつになるのだろう。不本意ながら寂しいからなるべく考えないようにしているにしても、仕事をしていないと考えてしまう。雨宮は向こうで元気にやっているだろう。それだけは間違いない。ならば自分はこちらで待っているしかないだろう。
「深雪もキミも…オレと距離を置きたがる」
手にした缶の残りを一気にあおって、ばったりと後ろに倒れこんだ。
「どうせつまらなくて不器用な男だよオレは」
あと何年待てばいいだろう。一度も蛍なんて呼んだことすらないのに。関係は止まったまま。信じて待っているしか無くて、本当は辛い。