37話行間補完(部長→蛍)
手嶋と一緒に泊まってきたと知ってモヤモヤしていた気持ち、それが何か気づくまでに時間がかかってしまったのはなぜだろう。認めたくない気持ちだったのかもしれない。雨宮の幸せを願いながらも、雨宮がいなくなることで自分の幸せが減ると言うことを。このまま決める必要の無い関係で一緒にいられたらそれでいいと、どうせ雨宮のことだからそういう関係が続くだろうと思っていた。
「部長はあちらに戻ってください!」
雨漏りでマンションから非難しようとしていた自分に、あの家に戻れと言ってくる。
「…別にいいよ、ホテル代も弁償してくれるって言うし」
「だってそんな落ち着かないじゃないですか!部長には住める家があるんだから!」
…住める場所なんてどこにでもあるさ。だけど、あの家に戻った所で逆に雨宮が出て行くのならば今までと変わらない。面倒かけられるけれど、このポジティブさと気安さが少しだけ癒しになって助かっていたと自分でもわかっている。なら別に雨宮がいないのならばどこの家でも代わりは無い。
「いーって、今の住人はキミだろ」
「…でも!」
こちらのことを父親のように心配しているのだろう。けれども、あの家が休まるのではなくて、キミがいたら安らぐとなんて誰が言えるだろう。それこそ父娘関係をこちらが求めているようで抵抗がある。
(代わりに出て行かなくなって、いままでだって一緒に暮らしてきたじゃないか)
手嶋とラブラブな彼女を見ているとどうもしっくりこない。幸せなら喜べることだと最初は思っていた。自分がアドバイスして上手くいったと報告してくるのも、失敗したと沈んで相談してくるのも、面倒とか嫌とかではなかった。この娘に関わっていることが楽しい…きっと父親的感情なんだろうか。
「それともなに?こーゆー建前があればキミは勢いつけてメガネくんのとこに転がり込めるから?」
「はぁあ?!」
雨宮は漫画のように目と口を大きく開いた。自分でも考えてなかったのだろう。自分は同居人の静養のために家を空けてどこへいくつもりだったんだと問い詰めてみたかった。
(こういうときくらい、ビールを飲む相手になってくれたっていいだろうに、自分が出て行って静かにオレがひとりでビールを飲めればいいとでも思ってるのか。どうせ飲む相手なんて他に六郎ぐらいしかいないさ)
「なんかさー」
どうも納得がいかない。こいつはどうしてこんなに気づかないんだろう。本当に…はっきり言っても気づかないようなやつだ。
「オレの不幸にかこつけてキミばっかりラブラブって…オモシロクない、ヤダ」
ふん、と腕を組んで横を向き、イライラした気持ちを明後日の方向に向ける。でも言った後の反応が気になってしまう。
「べ、別にそんなこと考えてませんよっ!も、戻ってください!」
「えーじゃあなんでそんなにムキになるの」
「な、なにいってんですかムキになってるとかじゃなくて!」
(ムキになってるのはオレのほうかもしれない。雨宮にとっての幸せのはずが喜べない。手元を離れるのが…)
(終。オチなし)