翔のその後

妄想的ではなく、公式っぽい翔→千里を書いてみました。

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叶わなくてもいい、それでも伝えたかった。そういう「好き」ってある。想いが叶えばそれは凄い幸せな事ではあるけれど叶わなくても家族の一員として暮らしていけるって分かっているから。千里が、告白されて断って家から追い出すような子じゃないって分かってるから。それってつまり、チャンスは無限に残ってるってことだろ?

(俺はズルいんだ)

結果はどうであれ、今六人兄弟と千里…正確に言えば七人兄弟なのだけれども、仲良くテーブルを囲んで朝食と夕食をとる。昼食は仕事している奴もいるからそれぞれで食べるけれど、例えば智はここから学校に行くことにしたらしい、ということは誰かが弁当を作らないといけないから、昼食は全員弁当にして朝に同じものを七つ作ることにした。

(こっちは千里でこっちは井上さんの手作り、という差で揉めたこともあった…)

ちなみに揉めるとあれなのでそれ以降は当番制になっていた。井上さんはレギュラーでそのほかは二人一組、千里が当番の日のもう一人は毎週くじ引きで決めている。千里のエプロン姿を露骨に喜ぶ優や智はさておき、身も心も大人同盟(仮)を結ぶ三人は静かに目の保養にしていた。

(こういうことも、ある意味俺が千里にイエスともノーとも言わせなかったからありえてるんだけどね)

告白したときのことを思い出す。

夜のトリックハート城のベランダに出るといつも通り月が見えて、それを千里が見上げて眺めていた。同じようにいつも通り無言で横に並んで、自分はむしろ下を向く。

「あのさ」
「ん?」

躊躇うと変に間が空く。一つ深呼吸をしてから、

「俺、お前のこと好きだよ」
「えっ…?」

明らかに困惑して挙動不審な千里を横目ではなくしっかりと見つめた。

「誰にも渡したくない位、好きだって言ってるの」

と、そのとき

「俺も俺も!」
「僕も!」
「じゃあ俺も!」
「俺もそうしとく!」

近くの木陰から兄弟たちがわらわらと現れて自分を押しのけ、千里の前に飛び出した…。

「…空気読めよ」

こういう登場で邪魔されるのはわかっていた。ズルいからしっかりわかってた。だから邪魔されてもいい告白にしたんだ。そっちはどう?とか聞かない。でも想いは、一番に伝えておきたかった。自信があったから。千里は間違いなくこの中で自分のことを一番特別に思っているって、自信があったから。

「空気は読んだぜ」ふふん、と風が笑った。「しっかりとな」



告白こそあんな風になってしまったけれども、これからが本当の勝負だし挑戦だと思ってる。一緒に住んでる兄弟たちには負けない。長年の勘からしてあのタイミングじゃ千里が「あたしも」とは言わないと思っていた。だから好きってアピールして意識させてみようと思った、それが今回の狙い。

「さてっと、弁当作るかな」

エプロンをつけた千里がお玉を持って現れた。

「翔!早く来てよ、間に合わないじゃない」
「はいはい今行きますよ、っと!」


(おわり)

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翔×千里にしなかったのは公式のテーマである逆ハーレムを崩さないためです…。あくまで原作重視!ゴメンナサイ!
好きってアピール、って言葉が翔にはぴったりだと思うんです。ああいうそぶりもしてますしね。気を引くのは上手いむしろそこを本人もわかってると思うので〜